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紀州備長炭報告レポート

報告レポート 2007年8月31日 玉栄貴良

 「07年県外研修旅行・紀州備長炭の里と熊野大花火の見学」での、その報告のレポートを作成しました。
 今回、炭焼き現場を訪ね、製炭士のお話をうかがい、改めて教えを頂きましたことにつき考察をしました。

1<木炭の新用途について>
 新用途について今後どのようなものがありますか、との質問に製炭士の玉井又次さんは以下のように答えてくれました。(正確には紀州備長炭指導製炭士)
 「今、三重県津市にある木質研究所の○○先生が開発しているものに、宇宙船の先端に備長炭が使われているものがある。耐火性があるということ。炭は燃える物質であるが、まったく逆の使われ方がされているわけです。」
 備長炭は黒炭と比べて火付きが難しい。着火点はコナラ黒炭350~400度に対して、コナラ白炭は499度です(岸本定吉『炭』37ページ)。備長炭の着火点は484~521度です(同50ページ)。といって、宇宙船の外界は大気圏突入時は1400度の高温にさらされるということですので、とてもでないがそのままの備長炭であれば、ひとたまりもないはずですが。どうなっているのでしょう。
 これまでの備長炭をはじめとする木炭は燃料用として、燃やすということを前提に作り上げてきました。しかし新用途として燃えないあるいは燃えにくいといった耐火性の素材が求められている。これこそこれまでの常識を破るコペルニクス的転回とでも言えましょう。
 まさか燃えないものに使用しようなどと誰も想像すらしなかった。まさしくこれこそコロンブスの卵です。誰だって思いつきそうにないし、行おうともしなかった。それを可能にしようとするのです。
 斎藤和彦さんは炭やきを「男のロマン」であると言っていますが、このような新用途を見てきますと、「ヒトのロマン」から「人類のロマン」へと広がっていくように思います。
 なお新用途木炭につきましてはこれまで、土壌改良、水質改善、消臭、炊飯、飲料水、床下調湿など、燃料以外の用途が開発されています。
 新用途については、これからの課題として研究していきます。

2<黒炭から白炭へと変化する>
 備長炭とは・・・。岸本定吉『炭』から引用します。

 ところで備長炭という名は、備後屋長左衛門がつくったので、その名がついたという説がある。また、(中略)元禄年間備中屋長左衛門が発明したというのが通説になっている。
 前記、国学院大学教授樋口清之博士によると、備中屋長左衛門は紀州、田辺藩城下町の炭問屋で、・・・この炭問屋の扱商品を備長炭と名づけたというが、備長炭は田辺市の東、秋津川村(今は田辺市の一部)付近の多くの炭やきさんたちにより改良されたものであることには間違いない。(50~51ページ)

 備長炭は一般の白炭より硬質であると言われています。三浦式木炭硬度計によりますと硬度は20度です。その他の備長炭も15度以上の硬度がある。
 備長炭は炭化中の温度操作が220度くらいにコントロールされています(他の白炭は280度くらい、黒炭は350度くらい)。
 岸本定吉『炭』から引用します。

 天井は粘土で固めている。(中略)備長窯は特に高温になるのに天井には粘土を使っている。
 一般の白炭窯の常識を破る天井構造であるが、この原因は、紀州山地は古生層で耐火性の強い粘土が処々にあるため、白炭窯の天井も粘土で構築できた。だが、粘土を使うために、炭化の初期には、天井が濡れて、温度の上昇をブレーキするし、また、炭化が終わると、放熱しやすいので、窯が冷えやすく、良質の木炭を、能率よく焼くには良い条件になっている。(51~52ページ)

 紀州山地では耐火性の強い粘土が得られるが、他の地域でそれが得られない。いくら紀州と同じ備長窯を真似ても、耐火性の強い粘土が得られないため岩石と併用せざるを得ない。そのため粘土と石で築いた備長窯でウバメガシを焼いても、紀州と同様の備長炭を焼くことはできません。
 また、炭化温度を220度くらいにコントロールするためには、ウバメガシの材質を見る必要があります。
 岸本定吉『炭』から引用します。

 それというのも炭材のウバメガシは硬質だが熱分解しやすく、温度を高くすると、熱分解が激しくなるため、炭材は折れくだけてしまうからである。そこで、なるべくゆっくり熱分解するため、温度を低く制御するわけだが、炭窯には特別な制御装置はないので、排煙口、煙道口の大きさを小さくし、また、窯土に粘土を用いるなどして自然にコントロールできるように窯の構造ができている。(53ページ)

 炭化が終わりに近づき、青白色の煙がなくなり無色に近い感じになったらネラシをかけます。この段階で炭の状態は黒炭と同じです。すなわちウバメガシの樹皮もついたままですし、黒いままです。
 ここで窯口を閉じれば黒炭になります。しかしここから備長炭はネラシをかけます。塞いでいた窯口の壁に少しずつ穴を開けていきます。ほぼ一昼夜かけて行います。
 玉井又次さんによれば、時間間隔は短く、5分おき10分おきくらいの間隔で少しずつ小さな穴を開けていく方が良いとのことです。
 土とレンガで塞いだ壁を取り壊して全開にし、時間が経つにつれ備長炭の周りが赤い炎から金色へと変化していく。
 その後、時を見計らって、ある一定量を窯口手前まで引きずり出す。そこで十分にガスや樹皮を焼ききり、窯口の外へと引き出す。そういった動作を全部の量出しきるまで繰り返す。外に出した灼熱の塊は素灰をかけ消火します。10時間くらいかけてやる。まあ1日がかりのことだと言います。

3<備長炭は伐採したての生木を短時間のうちに窯へくべる>
 ある炭やきさんは製炭する量だけを山から切り出してくるといいます。それだけ備長炭は間を置かずに窯に入れ製炭を始めるということです。
 黒炭は伐採から3週間くらい乾燥させてから焼くと良炭になるという。生木では約50%の水分を含んでいて、3週間後に約35%になっているとのことです。
 備長炭は、焼けた炭を出し終えてから炭材をくべるまで時間をおかずに行います。2時間後という炭やきさんもいれば、1日おくという炭やきさんもいます。この時間は、黒炭からすればはるかに短い時間です。黒炭は、窯を閉じ冷却させて開けるまで3日から1週間かけて時をおくからです。
 炭材を放り込むと時を同じくして、炭材から白煙が立ち上がってきます。炭材を詰め終わってから窯口をレンガと土で焚き口を残しふさぐ。焚き口で薪をくべ炭化が始まるまで火を焚いていく(これを口焚きといいます)。2~3日かけて行います。
 ある炭やきさんは半日このように薪をくべ口焚きをし、あと半日は焚き口を塞いで家へ帰るとの由。窯の中は炭出し直後は人が入れないほどの熱さで、生木を入れれば燃材をさほど入れなくとも温度を保っていられます。半日空けても大丈夫です。急に温度を上げるのも防ぐ効果があります。220度くらいを一定程度保つことが良炭を生む条件であるのなら、これも一方法なのでしょう。
 一方黒炭は2~3日燃材を焚き続けます。夜中、明け方、気が緩んだ隙に火が心細くなっているのはしょっちゅうです。
 炭やきさんによっては、機械で風を送り炭材に火を移して、短時間のうちに炭化へと移行させてしまう人もおります(実際僕も経験ずみです)。

<参考文献>
(1)岸本定吉『炭』創森社、1998
(2)岸本定吉・杉浦銀治『改定新版日曜炭やき師入門』総合科学出版、2001
(3)玉井又次『紀州備長炭の技と心』創森社、2007
(4)阪本保喜『紀州備長炭に生きる』農文協、2007

 以上、報告します。
 これからさらに次の課題につきましても内容を膨らませつつ研究を重ねていく次第です。

<白炭・黒炭の製炭過程>
 この両者における製炭過程はほとんど同じだとのことですが、違いは何か。
 一 窯が白炭用・黒炭用であること、など。
<煙のにおい・煙の色による炭化状態の識別>
by aichi-sumi | 2007-10-01 12:17 | 会員の活動報告
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